歩きで峠を攻める

pixivで11年間二次創作やってます。映画・ドラマ・アニメの感想とか、その他雑記。時々イラスト

配信終了サルベージ記録 Vol.22

※基本ネタバレあり

 

2023/3 ダウンサイズ

 

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SFとして好き!

 

ついこないだSFは好きじゃないのかもしれないと言ったばかりですが

 

su1264i.hatenablog.com

 

面白いと思えるSFがあるならまさにこれだと思った映画です。

ぱっと見でB級映画感漂うメインビジュアルからして想像つかないほどちゃんとしてた。なんか、人間がスモールライト的なやつで小さくなるというアイディアありきのドタバタ劇なのかと思ってたら全くそんなことはなくて、動植物の縮小が技術的に可能になったら社会はどうなるかという描写がかなりシビアにされているように見えた。

人間が縮小すればそれに伴って食糧やエネルギーの消費は格段に減るので、政府も縮小を支援して税額控除とか、安全面や利便性も考慮されててダウンサイズした人には専用の居住区が用意されてるとか、縮小の施術を行う際には全身の毛も剃らないといけないとか(インプラントとか義肢は分かるけどまさか毛もダメとは)、当然縮小化によって消費が減れば、それがたとえ地球環境に良いとして、経済には大打撃で社会的な負の影響も大きいとか。さらにそれが差別にも繋がるとか。

ネットフリックスのオリジナルドラマ、ブラックミラーにありそうな感じ。ブラックミラーならもっと胸糞悪い終わり方するのだろうけど。

 

もともとが裕福でない人でも、縮小すれば資産が何百倍(だったか何十倍だったか)にも増えるので、主人公夫婦も縮小を決意します。が、最後のお別れパーティーをしているときに「妻が施設に不満があって…」「夫が乗り気で押し切られちゃった」とお互いのせいにしてたのでこれはアカンやつ…。

案の定、夫のポールが施術後に目覚めると妻から電話があり「怒らないで聞いて、途中で我に返ったの。友達や家族と離れられない。あなたが喜ぶから無理してたけど、やっぱり自分が大事」と。ポール「自分が大事!?(ブチキレ)」

喧嘩でどちらかが100%悪いってことはそうそうないけど、これはポールに同情するわ…だって一度縮小したら二度と元に戻れないんですよ。

 

レジャーランドという縮小者用の居住区は、色々な世界の名所が再現されているのですが、それがなんだかバブル期の日本のテーマパークに重なります。何十分の一サイズのピサの斜塔とかエッフェル塔とかの。名所は本物だから価値があるのにそのレプリカを作ったところでなんだというんだ…哲学者のボードリヤールはこういうのをシミュラークルといった

 

数年後ポールはなんだかんだあってベトナム人活動家ノク・ラン・トランに出会いますが、そこでダウンサイズの闇が浮き彫りになります。ノク・ランは政治犯として政府によって強制的に小型化された経緯があり、レジャーランドで清掃員をやっています。

 

レジャーランドは縮小で資産が増えた富裕層だらけ。遊んで暮らしている人も多いのに、肉体労働者がいるのは何故か。彼女のような犠牲者がいるからですね。或いは貧困によって縮小を余儀なくされた人。ノク・ランが住んでいるのはそういった人たちが集まるスラムのような団地。夢の技術じゃなかったのかよ縮小。現実が文字通り縮小再生産されてるだけだった。

 

ポールは元理学療法士なので、義足のノク・ランを助ける内にスラムまで強引に連れ回されて医者の代わりのようなボランティアをさせられる。それが、ずっと虚しく生きていた彼がようやく生きがいを見つけたねって感じに見えて微笑ましい。

ノク・ランのポールに対する言動がかなり強気で図々しく「○○しろ」「ここに来い」と命令口調。英語の拙さと素の厚かましさが混ざってそんな言葉遣いになっている様が面白い。

 

終盤、ポールは隣人の起業家に誘われてノルウェーにいる縮小技術の生みの親である科学者に会いに行くのですが、そこにある原始の縮小人間コミュニティ(実用化以前に被験者になった人たちの村)がなんか不気味です。少しミッドサマーを彷彿してトラウマ甦りそう。別にそんなグロシーンとかは全くないのに。これが北欧のネガティブなステレオタイプか。

件の科学者もそんな北欧のステレオタイプみたいな人で、環境問題に対して過度に悲観的で、まるで今すぐ地球は滅ぶかのような物言いをする。あーグレタ・トゥンベリもそういえば北欧の人だし、こういう文脈から出てきたのか…